
日本人ならば知っておくべき言葉である「初物(はつもの)」ですが、どのような意味なのかをご存知の方はそう多くないのではないでしょうか?
初物を辞書で引くと「その季節に初めて収穫した野菜や果物、穀物、魚介類などを指す言葉」と出てくるかと思います。
初物は別名「はしり」とも言い、井原織留氏の浮世草子「西鶴織留」の中に初物に関する記述があります。
また、初物を好んで食す方を初物食いと呼び、日本人が昔から初物が好きだったことを表しています。
例えば、毎年11月頃に解禁されるフランスのボジョレー・ヌーボーは生産国であるフランスよりも日本の方が盛り上がっています。
その理由は日本人が初物好きだからです。では、なぜ日本人は初物が好きなのでしょうか?
日本人が初物好きな理由とは?

Ame’s photo / ame0399
日本人が初物を好む理由を2つ紹介していきたいと思います。
まず1つめ「初物を食べると福を呼び込み、長寿になる」からです。
古い時代から日本人は、その季節に初めて収穫された食材を食すと福を呼び込み、長寿になると言われており、初物は縁起が良い食べ物の1つと言われています。
初物はよく旬と間違えられるのですが、初物とはその季節に初めて収穫・漁獲された食材のことを指します。
旬は、収穫や漁獲時期を迎えた食材の最も風味が良いと言われる食べ頃の時期を指しています。
平たく言いますと、初物は初めて収穫・漁獲された「はしり物」、旬は食材が豊富に出回る出盛り時期を指しています。
初物は生き生きとした気力や活力が宿っており、初物を食べると新しい生命力を体内に宿すことが出来ると考えられてきたのです。
「初物七十五日」という慣用句があるのですが、これは初物を食べると75日生き延びることが出来るという意味を表しており、地域によっては初物を食べる際は東の方角を向いて笑いながら食すと福が舞い込むという云い伝えがあります。
また、八十八夜に摘んだ茶葉を飲用すると無病息災で長寿になるとも言われています。
そのため、年配者へ新茶を贈るという風習が今でも残っています。
2つめは「旬のパワーで健康を維持させる」ためです。
初物と旬の違いを先ほどご説明しましたが、初物は旬の始まりを表しており、日本人は古くから旬を大切にする習慣があります。
そのため、先駆けて旬の食材を食することで、その食材が持つ本来の風味や香り、季節感を感じ取ることができ、旬の食材に優れた栄養効果が含まれていることを知っていたのです。
現在でもその習慣が残っており、季節に合わせた旬の食材を食すことを望んでいるのです。
また、昔から日本人は「旬」という言葉をまとめることはせず、初物である「はしり」・旬の「出盛り」・終わり初物の「名残」を大切にしており、季節の移り変わりを楽しんでいました。
現在でもその風習は残っており、スーパーやデパートで初物が並ぶとついつい手を伸ばしてしまうのがその名残です。
初物四天王とは?

松茸 / shibainu
日本では「初物四天王」と呼ばれる食材があります。
それは初鰹・初鮭・初ナス・初キノコです。
江戸時代、都に住んでいた江戸っ子と呼ばれる人々はせっかちで気前の良い性格の方が多く、初物に対する閑雅な心が強かったと言います。
初物の中でも特に人気の高かったのが初鰹や初茄子、初茸です。
特に初鰹は1匹1両という破格の値段でも迷うことなく購入して食べていたそうです。
初物なのだから高くて当たり前という考えだったのでしょう。
鰹の旬は1年に2度ありますが、初鰹と呼ばれる鰹は春から夏にかけて漁獲されるものです。
とてもさっぱりとした味わいの初鰹は、江戸中期に活躍した俳人・山口素堂氏も「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と詠んでおり、当時からたいへん人気があったことが伺えます。
初茸とは、秋の味覚である松茸のことを指しています。
江戸時代では香りの良い松茸は現代と変わらずたいへん高価でした。
しかし、現在の松茸とは違い、江戸時代の松茸は、優美な香りと握りこぶしほどの傘を持つ松茸でした。
有名な俳人である松尾芭蕉も「初茸や まだ日数経ぬ 秋の露」と詠んでおり、当時から松茸を今か今かと待ちわびる人々の情景を表現しています。
初茄子は、駿河のことわざで「1富士2鷹3茄子」というものがあります。
これは睡眠中に見ると縁起が良いと言われるものを並べており、3番目に挙げられている茄子の初物を食べると良いと言われ、江戸時代の初期から献上品としてたいへん重宝されていたそうです。
現在でも初鰹や初鮭、初茄子、初茸は人気が高く、特に初鰹は初夏を感じさせてくれるためたいへん人気のある初物です。
まとめ
近年では農業や漁業の技術が向上し、旬でなくても1年を通して美味しい食材が入手できるようになりました。
そのため、初物の価値も下がりつつあり、本来日本人が持っている素晴らしい風習が崩れつつあります。
これからも古き良き時代の日本の心を忘れないためにも季節に合わせた食材を食べて、健やかな生活を過ごして頂きたいと思います。